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『一神教全史 上
──ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の起源と興亡


2023年5月29日、河出新書61として刊行
■紹介文

宗教とは何か? それは、共同体を作り上げるために必要とされる「フィクション」である。
そして世界史は、一神教的な信仰を基盤として築かれた共同体が、
段階的に構造を変化させることによって形成されてきた。
宗教の基礎を的確に捉えた上で、一神教の思想史を縦横に語る圧巻の講義録。
まず上巻では、ユダヤ民族が困難な境遇のなかから唯一神の信仰を案出した過程、
世界宗教としてのキリスト教の成立、ローマ帝国やゲルマン系諸族との関係性、
イスラム教の出現と拡大、カトリック的教皇主権体制の確立について論じられる。

■目次
第1講 イントロダクション――宗教思想史の正当な理解を求めて 15

1 始まりの挨拶 15
宗教を理解する――単純にして困難な試み
2 宗教の基礎構造 18
宗教の不思議な呪縛力/ 宗教とは何か――共同体の形成原理/ 呪術とは何か――共同体の綻びから生じる幻想
3 宗教史の全体像 25
宗教の四段階構造論/ ①原始の祖霊信仰/ ②古代の多神教(民族宗教)/ ③中世の一神教(世界宗教)/ ④近代の国家主権

第2講 ユダヤ教の歴史①――原初の遊牧生活からダビデ王の治世まで 39

1 ユダヤ人の原初的な遊牧生活 41
古代ユダヤ史の概要/ 小家畜飼育者としての生活/ ロバートソン・スミスによる近代的聖書研究/『セム族の宗教』における供犠論
2 ヤハウェと族長たち 50
族長の出現/ アブラハムの契約/ イサクの燔祭/ ヤコブと一二人の息子たち/ ヨセフのエジプト移住
3 モーセによる出エジプト 58
過越祭の起源/ 十戒の授与――シナイ契約/ 選民思想と神への離反
4 統一王国の成立――メシアとなるダビデ 65
カナン征服/ ダビデが「油注がれた者」となる/ 神殿を築いてはならない――遊牧と定住のジレンマ

第3講 ユダヤ教の歴史②――王国の発展からバビロン捕囚まで 74

1 ソロモンの栄華とヤハウェの神殿の建設 75
農業の発展――乳と蜜の流れる地/ ソロモン王によるヤハウェの神殿の建設/ 多神教への傾斜――バアル崇拝
2 王国の分裂 81
北のイスラエル王国、南のユダ王国/ 預言者による王国批判/ 預言者エリヤ――黙示思想の発端/ 預言者アモス――権力者や富裕者への告発
3 南北両王国の滅亡 88
イスラエル王国の滅亡――アッシリア捕囚/ ヨシヤ王による申命記改革/ ユダ王国の滅亡――バビロン捕囚/ 預言者エレミヤ――哀しみと希望の歌
4 唯一神教の確立 95
預言者エゼキエル――世界中を動く神/ 預言者イザヤ――世界史を統べる神/「苦難の僕」というメシア像/ メソポタミアの諸宗教からの影響――世界を創造する神/ 民族宗教としての挫折、一神教への脱皮

第4講 キリスト教の発端――イエスの福音とパウロの教会論 112

1 イエス時代のユダヤ社会の状況 113
バビロン捕囚解放後の歴史/ ユダヤ教の四つの宗派/ イエスやキリスト教の立場
2 イエスの生涯と福音の告知 121
イエスの基本思想/ イエスの系図の意味/ 聖母マリアの処女懐胎/ ヨハネから洗礼を受ける/「父・子・聖霊」の三位一体/ 見失った羊の譬え/ 狭い戸口の譬え/ 善きサマリア人の譬え/ 皇帝のものは皇帝に、神のものは神に/ 女から油を注がれる/ 最後の晩餐――神との新しい契約
3 パウロによる教義の体系化――信仰義認論と教会論 146
使徒たちの福音宣教/ パウロの生涯/ 律法の遵守ではなく、神への信仰によって義とされる/ キリストの体――﹁弱者の共同体﹂としての教会/ ユダヤ教からキリスト教への転換

第5講 キリスト教とローマ帝国の関係――エウセビオスの政治神学、アウグスティヌスの神国論 160

1 紀元後1〜5世紀のローマ帝国とキリスト教 162
ローマ帝国の没落、キリスト教会の発展/ 王権と教権の関係――融合か分離か
2 エウセビオスの政治神学 168
エウセビオスの略歴/ ミルウィウス橋の戦い/ ニカイア公会議の招集/ アリウス派とアタナシウス派の対立/ 復活祭の日取りの問題/ コンスタンティノープル建設とローマ法改正/ 政教一致の弊害――権力の硬直化、反ユダヤ主義
3 アウグスティヌスの神国論 185
アウグスティヌスの略歴/『神の国』の構成/ ローマの宗教と国家に対する批判/人類の原罪と死の支配/ 人間の二重性と二つの国/「地の国」を旅する「神の国」の民/『神の国』の歴史観

  第6講 西ヨーロッパのキリスト教化――教皇制と修道制の形成、カール大帝の宗教政策 203

1 教皇制の成立 205
「ペトロの後継者」としての教皇/ レオ1世がアッティラのローマ侵入を退ける
2 フランク王国とカール大帝 210
クローヴィスの受洗/メロビング朝からカロリング朝へ/カール大帝とカロリング・ルネサンス/ 教皇レオ3世がカールに帝冠を授与する/ コンスタンティヌスの寄進状
3 修道制の発展 220
アントニオス――独住修道制/ パコミオス――共住修道制/ ベネディクトゥス――祈りと労働/ カール大帝の文教政策――書字法や文法の統一/ クリュニー修道院による改革運動/ 中世における修道制の意義

第7講 イスラム教の歴史①――ムハンマドの生涯と思想 240

1 ムハンマドの生涯 242
孤児として過ごした幼年期/ ハディージャとの結婚/ 天使ジブリールを介し、神の啓示を受ける/ 預言者かマジュヌーンか/ 初期の宣教と「開端」章/ クライシュ族の反発/ メッカ宣教の挫折と夜行旅/ メディナへの聖遷/ ウンマの形成とメディナ憲章の制定/ 聖戦の始まり――クライシュ族との戦争/ メッカ入城と別離の巡礼/ 一神教の純化、権力の一元化
2 教説の特色①――メッカ期 267
メッカ期とメディナ期/ クライシュ族の歴史――商業的繁栄がもたらす矛盾/ タウヒード――神の唯一性/ 終末論――天国と地獄
3 教説の特色②――メディナ期 275
ユダヤ教徒との争い/ アブラハムの宗教/ イシュマエルの系譜
4 イスラム教の基本教義 281
六信五行/ 巡礼の行程と犠牲祭

第8講 イスラム教の歴史②――イスラム帝国の形成 290

1 イスラム国家の発展①――正統カリフ時代 291
初代カリフ、アブー・バクル/ 第2代カリフ、ウマル/ 第3代カリフ、ウスマーン/ 第4代カリフ、アリー/ ウンマに生じた分裂
2 イスラム国家の発展②――ウマイヤ朝時代 303
ウマイヤ家によるカリフ独占/ シーア派の誕生/ 国家機構の整備
3 イスラム国家の発展③――アッバース朝時代 306
アッバース革命/ 国際都市バグダードの繁栄/ 知恵の館とアラビア・ルネサンス/アッバース朝の衰退とトルコ人の台頭
4 スンナ派におけるイスラム法学の発展 314
スンナ派とシーア派/ コーランとハディースの編纂/ イスラム法の四つの法源/ スンナ派公認の四法学派/ カリフ位に関する法的規定
5 シーア派におけるイマーム崇拝 325
アリーの血統の神聖視/ 十二イマーム派の成立/ 第12代イマームの幽隠と再臨/「イマームの代理」としての法学者

第9講 中世ヨーロッパにおける教皇主権の理念――神聖ローマ帝国の成立から十字軍まで 339

1 神聖ローマ帝国の成立 341
フランク王国の分裂/ オットー1世の戴冠/ 私有教会制から帝国教会政策へ
2 グレゴリウス7世の教会改革 347
教会の堕落――シモニアとニコライズムの蔓延/ 教会の改革運動/ グレゴリウス7世の登場/ 教皇教書の発令/ 近代国家の雛形としての「教皇主権」
3 叙任権闘争 358
ハインリヒ4世との抗争/ カノッサの屈辱/ ヴォルムスの政教条約/ 太陽と月――教皇権の絶頂
4 十字軍の派遣 365
ビザンツ帝国からの救援要請/ 十字軍の呼び掛け――ウルバヌス2世の演説/ 民衆十字軍――民衆の熱狂とユダヤ人虐殺/ 第一回十字軍――四つの聖地国家の建設/ 第二回十字軍――イスラム教徒の反転攻勢/ 第三回十字軍――サラディンのエルサレム征服/ 第四回十字軍――コンスタンティノープル征服/ その後の十字軍運動/ 非イスラム教勢力に対する十字軍/ 十字軍とは何だったのか――教皇主権体制の確立/ 聖戦論の発展

主要参考文献 i
   
 

『一神教全史 下
──中世社会の終焉と近代国家の誕生


2023年5月29日、河出新書62として刊行
     
   ■紹介文

複雑な宗教史を鮮やかに解き明かす、決定的書物の登場。
下巻では、中世末期のキリスト教世界に花開いた、スコラ学から話が始まる。
学問の隆盛は、従来の信仰を内破させる作用をももたらし、宗教改革の運動が勃発。
その混乱を抑止するため、人工的な国家に主権を付与するという思想が提唱される。
こうして誕生した主権国家という「新たな神」は、急速に成長し、
近代の最強国アメリカを成立させる一方、ナチズムの惨劇をも生み出す。
そして中東では、ユダヤ人国家が再建されるが、イスラム主義の抵抗を招き寄せる――。
 
 ■目次
   第10講 スコラ学の発展――十二世紀ルネサンスからトマス・アクィナスまで 15

1 十二世紀ルネサンス 18
ヨーロッパにおける三つのルネサンス/ シリア・ヘレニズム/ アラビア・ルネサンス/ アラビア世界とヨーロッパ世界の接触/ 新たに翻訳された古典文献――アリストテレス革命
2 大学の誕生 26
「共に読む」ための共同体/ 大学組織の確立
3 神学と法学の刷新 32
アベラールの登場/『然りと否』/ スコラ学の基本形式/ ローマ法の復興――イルネリウス/ 教会法の体系化――グラティアヌス/ 法学の独立
4 トマス・アクィナスによるスコラ学の大成 45
トマスの経歴/ 信仰と理性の調和/ 共通善の探求/ 法の階層的な構造/ 国家に対する教会の優位/ アウグスティヌスとトマスの対比

第11講 宗教改革の時代――イタリア・ルネサンスの人文主義からドイツ三十年戦争まで 67

1 宗教改革を進展させた諸要因 69
人文学的な聖書研究① ――ロレンツォ・ヴァッラ/ 人文学的な聖書研究② ――デシデリウス・エラスムス/ 活版印刷術と木版画の普及/ 商工業を営む市民階級の台頭
2 ルターの宗教改革 82
出生から回心まで/ 九五箇条の提題――贖宥状批判/ ルターの破門決定/「キリスト教界の改善について」/ 聖書のドイツ語訳/ エラスムスとの論争/ ドイツ農民戦争と再洗礼派/ ルターの死とアウクスブルクの宗教和議
3 カルヴァンの宗教改革 98
パリ大学で学ぶ/ 回心の体験と、パリ大学からの退去/ 聖餐論争の高揚――檄文事件/ ジュネーヴにおける改革運動/ 長老制という新たな教会制度/ ジュネーヴ大学の創設/『キリスト教綱要』① ――予定説/『キリスト教綱要』② ――聖俗の分離
4 フランスのユグノー戦争 114
ユグノーの形成/ ユグノー戦争の始まり/ 暴君放伐論――抵抗権の理論/ ナント勅令
5 ドイツの三十年戦争 121
イエズス会の結成/ ハプスブルク家と「キリスト教帝国」の夢/ ボヘミアで戦端が開かれる/ ドイツ北部の戦い/ カトリック国フランスがプロテスタント側で参戦/ ウェストファリア条約

第12講 近代的な国家主権論の形成――ピューリタン革命の動乱、社会契約論の提唱 137

1 イングランド国教会の成立 140
イギリスの特殊性――複合国家と立憲主義/ ヘンリー8世の離婚問題/ 宗教改革議会――カトリックからの独立/ 英国教会主義と国王主権の確立/ エリザベス治世末期の宗教状況
2 ピューリタン革命と名誉革命 149
王権神授説の提唱/ 立憲主義からの反論――権利請願/ ピューリタン革命① ――イ
ングランド内戦/ ピューリタン革命② ――国王処刑とクロムウェル独裁/ 名誉革命と権利章典
3 ホッブズの国家主権論 160
リヴァイアサンとは何か/ ホッブズの生涯/ 人間理性によって作られる人工の主権者/ 人間論――想像力の機能/ 社会論――終わりなき戦争/ 国家論――社会契約が創造する新たな神/ キリスト教論――「霊的主権」への批判
4 ロックの近代的立憲主義 176
ロックの生涯/ ホッブズとロックの差異/『統治二論』① ――所有権の発展/『統治二論』② ――国家権力の制御/『寛容についての手紙』① ――政教分離原則/『寛容についての手紙』② ――国家が宗教に介入すべきケース

   第13講 アメリカ合衆国の宗教状況――新大陸発見から福音派台頭まで 198

1 アメリカ大陸の発見と植民地化 200
コロンブスとキリスト教信仰/ アメリカ大陸の植民地化
2 ピルグリム・ファーザーズの移住 204
イギリスのピューリタンの分裂/ メイフラワー誓約/ 感謝祭の成立/ 丘の上の町
3 大覚醒――アメリカ的キリスト教の成立 211
信教の自由・政教分離原則の萌芽/ ジョナサン・エドワーズ/ ジョージ・ホイットフィールド/ 大覚醒を契機として急成長した諸教派
4 アメリカ合衆国の成立 222
独立戦争と『コモン・センス』/ 独立宣言とジェファソンの思想/ アメリカ合衆国憲法の成立/ 西部開拓を経て南北戦争へ/ アメリカは世俗国家か、宗教国家か
5 原理主義の形成 232
自由主義と福音主義の対立/ 第三次覚醒――ドワイト・ムーディ/ ディスペンセーション主義と前千年王国説/『諸原理』の刊行/ 進化論裁判
6 福音派の台頭 241
プロテスタント諸教派の再編/ 福音派と原理派の差異/ 自由主義の迷走――公民権運動からカウンター・カルチャーへ/ ビリー・グラハムの福音伝道/ テレヴァンジェリストの登場/ アメリカの宗教の現状

第14講 ナチズムの世界観――アーリア人種優越論と反ユダヤ主義 258

1 アドルフ・ヒトラーの前半生 260
根無し草の青年時代/ ユダヤ人への反感/ 第一次世界大戦にドイツ兵として従軍/人種論の構築――アーリア人種・有色人種・ユダヤ人種/ 国民社会主義ドイツ労働者党=ナチスの成立/ ミュンヘン一揆の失敗/ メディア戦略への転換/ 政権の奪取
2 アーリアン学説の形成 276
ナチズムの世界観の背景/ 比較言語学とインド・ヨーロッパ祖語/ 比較宗教学とアーリア人種/ ゴビノーの『人種不平等論』/ 優生学の登場/ ゲルマン民族主義との融合/ トゥーレ協会の結成
3 ユダヤ陰謀論の蔓延 293
『シオン賢者の議定書』――史上最悪の偽書/ ナチズムへの浸透/『二十世紀の神話』
4 ナチスの人種政策――ユダヤ人の粛清とアーリア人の増殖 300
ユダヤ人迫害の開始/ 絶滅政策への発展/ 生存圏構想/ 生命の泉計画

第15講 イスラエル再建とイスラム主義興隆――ユダヤ人問題の歴史、現代の中東情勢 317

1 中世以降のユダヤ人問題 318
反ユダヤ主義の高揚/ ゲットーの成立/ ロスチャイルド家の台頭/ フランス政府によるユダヤ人解放
2 シオニズム運動の発展 325
ポグロムの頻発/ ドレフュス事件/ ヘルツルと『ユダヤ人国家』/ ロスチャイルド家の援助
3 イスラエル再建への歩み 333
オスマン帝国の解体/ イギリスの中東政策――三枚舌外交/ パレスチナ分割――イギ
リス委任統治から国連決議へ/ イスラエル独立宣言
4 中東戦争の勃発 341
第一次中東戦争――独立戦争/ 第二次中東戦争――スエズ動乱/ 第三次中東戦争――六日戦争/ 第四次中東戦争――ヨム・キプール戦争/ 中東和平の試みと挫折
5 イスラム主義の興隆①――スンナ派 348
オスマン帝国崩壊後の秩序を求めて/ イブン・タイミーヤ――サラフィー主義の源流/ ワッハーブ運動――サウド王国の建設/ ジャマールッディーン・アフガーニー――植民地主義への抵抗/ ハサン・バンナーによるムスリム同胞団の結成/ サイイド・クトゥブと『道標』/ イスラム急進派の台頭
6 イスラム主義の興隆②――シーア派 372
帝国主義の脅威に晒されるイラン/ イラン革命の勃発/ 法学者の統治論/ イランのイスラム共和制/ イスラム主義と近代主義の相克

あとがき 390

主要参考文献 i