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神話2 『ポイマンドレース』 |
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『ヘルメス選集』より | |||
■1.ポイマンドレースの出現 ある時私の中で、「真の存在」についての省察が深まり、身体の諸感覚が停止したとき、途方もなく巨大な人物が現れ、私に「おまえは何を聞き、眺めたいのか。何を知解して学び、認識したいのか」と尋ねる。あなたは誰か、という私の問いに対してそれは、「私はポイマンドレース、絶対の叡知である」と答える。そして、「存在するものを学び、その本性を知解し、神を認識したい」という私の願望に対して、ポイマンドレースがそれに応じることを了承する。 ■2.光と闇による世界生成 ポイマンドレースは姿を変え、私の前に「測り知れない眺め」を現出させる。最初に現れたのは光であり、すべては美しく、喜ばしかったが、やがて闇が垂れ下がり、それは次第に曲がりくねる<蛇>の姿を取る。闇は「湿潤なフュシス(自然)」のようなものに変化し、混沌たる様を見せ、哀訴の叫びを発していた。するとそこへ、光から(到来した)ロゴスがフュシスに乗り 、純粋な火 が湿潤なフュシスから上へと立ち昇った。空気はそれに続いて上昇し、火からぶら下がっているような形状を取る。その下で土と水は混じり合って、霊的ロゴスに従って動いていた。 ■3.世界の原型についての教示 次にポイマンドレースは、私が目にした光景が何であったかを解説していく。ポイマンドレースによると、「あの光は私であり、お前の神なる叡知であり、闇から現れた湿潤なフュシスより以前にある者である。ヌースから出た、輝くロゴスは神の子である」とされ、「お前の内で見聞きしている者は主からのロゴスであって、他方、(お前の内に見ている)ヌースは父なる神である」と語られる。また、ヌースとロゴスの結合が「命」であるとされる。光が無数の力から成り、世界が無際限に広がり、火が甚だ強い力によって包まれ、力を受けつつ序列を保っているという、ダイナミックな世界生成の有様を見て驚愕している私に、ポイマンドレースは、「お前は(自分の)叡知の内に(世界の原型を見たのだ」と告げる。また、「フュシスの諸元素はどこから生じたのか」という私の問いに対して、ポイマンドレースは、「それは神の意志から」であり、「この意志がロゴスを受け、美なる世界(叡知的世界)を見てこれを模倣し、自分の元素と霊魂によって自ら(感覚的)世界となったのである」と答える。 ■4.デミウルゴスによる世界創造 神なるヌース(至高神)は男女(両性具有)であり、命にして光であって、ロゴスによってデミウルゴス(造物主)となるもう一人のヌースを生み出した。デミウルゴスは火と霊気の神であり、彼は七人の支配者を造り出した。その支配は、運命と呼ばれている。神のロゴスは下降する元素から飛び出して、造物主なるヌースと一つになった。そのために下降する元素からロゴスが失われ、質料は孤立することになった。造物主なるヌースはロゴスと共に(世界の)円周を包み、これを永遠に回転させ続けることになる。そしてその回転運動は、下降する元素からロゴスを持たない生き物を生み出した。 ■5.人間の創造と質料世界への転落 万物の父であり、命にして光なるヌースは、自分に等しい「人間」を生み出し、これを自分の子として愛した。それは、彼は父の像を持っていて甚だ美しかったからであった。父は自分の似姿を愛し、自分の全被造物をこれに委ねた。そこで人間は造物主の創造を観察して自らも造物を願い、父もこれを許可した。そして人間は全権を得ようとして可視的世界の天球を訪れ、七人の支配者たちを観察するが、彼らは人間を愛し、自分に属するものを彼に分け与え始めたのだった。質料世界に対する全権を持つ人間は、星辰界と月下界の界面を通して下を覗き込み、下降するフュシスに神の美しい似姿を見せた。フュシスは、水の中に人間の美しい映像を見てこれに微笑み、他方人間は、水の中に映った自分の姿を見てこれを愛し、そこに住みたいと思った。するとその思いは作用力を起こし、彼は物質世界に住み着いてしまった。そしてフュシスはこれを全身で抱きしめて交わり、愛欲に陥ったのだった。この転落によって人間は、神的な性質(叡智)と質料的な性質(感情)という二重性を有することになったのである。 ■6.性の分化と交接の発生 人間と交わったフュシスは、人間が有していた七つの性質によって、直ちに七人の人間を生み出した。これらの人間は男女であり、その身体は、女性なる<土>と男性なる<水>、また、<火>からの成熟、<天空>からの気息という、物質の四元素によって産出されたが、その形は人間のものに倣っていた。ところが、周期が満ちて万物の絆が神の意志によって解かれると、男女であった人間は分離され、一方は男に、他方は女になった。それらの人間に対して、神は次のような聖なる言葉を告げた。「もろもろの造られしもの、また被造物よ、殖えに殖え、満ち満ちよ。また、叡知を持てる者、自己の不死なることを、愛欲が死の原因たることを、しかして一切の存在せるものを再認識すべし」。神がこう言った後、摂理は、運命と組織(の性質)とを通じた交接と生誕を定めた。こうして、自己を認識する者は溢れるばかりの善に至り、愛欲の迷いから生じた身体を愛する者は、さまよいながら闇の内に留まることになったのだった。 ■7.叡知を持たない者の運命 「神が光と命とからなることを学び、自らもこれらから成ることを学ぶなら、お前は再び命に帰るであろう」というポイマンドレースの教えに対して、私は「すべての人間が叡知を持ってはいないのですか」と問う。するとポイマンドレースは、諸感覚の働きを憎悪する言葉を述べた後で、「無理解な者、悪しき者、邪な者、妬む者、貪欲な者、人殺し、不敬虔な者から私は遠く離れており、懲罰のダイモーンに事を委ねている。この者が火の鋭さを増し加え、感覚を通じてその人を攻め、一層不法へと駆り立てる。そのために、人はより大きな罰を受け、欲情を抱くままに限りない欲望から休まることがなく、飽くこともなく闇の戦いを続ける」と答える。 ■8.帰昇の道 さらに私は、「来るべき上への道について語って下さい」と願う。するとポイマンドレースは、質料的な身体が分解して不可視のものとなり、情熱と情欲はロゴスなきフュシスの中に帰るということを告げる。さらに、七人の惑星天の神々(支配者)から受けていた「作用力」は、帰昇の過程においてそれぞれの源へと返還されていく。それらの性質は、いかのようなものである。 第一の層──増減の作用 第二の層──悪のたくらみ、計略 第三の層──欲情の欺き 第四の層──支配の顕示 第五の層──不遜な勇気、敢えてする軽率 第六の層──富の悪しき衝動 第七の層──隠れ潜んだ虚偽 次に人間は、惑星天の作用力から脱し、第八天に至る。そこにいる「存在する者たち」は彼の到来を喜び、共に父を賛美する。するとそこで、第八天の上にいる諸力が甘美な声で神を賛美しているのを聞く。神への賛美を共にした後、彼らはさらに上昇し、それらの諸力に自らを引き渡して、神の内になる。再び神的なものとなることこそが、認識を有する人々の善き終局である、とされる。 ■9.宣教と頌栄 ポイマンドレースは私に、ここで伝え聞いたことを人々に宣教することを勧める。そして私は、敬虔さと知識の美しさを、人々に宣べ伝え始める。「民よ、土から生まれた者どもよ、酔いと眠りと神に対する無知に自己を明け渡している者どもよ、目覚めるのだ。ロゴスなき眠りに魅せられた、酩酊の様をやめるのだ」。それを聞いたある者はからかいながら去っていったが、ある者は教えを請い、不死の水によって養われた。私は自らの覚醒を感謝し、ポイマンドレースに頌栄の言葉を捧げる。 |
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[出典]『ヘルメス文書』荒井献・柴田有訳、朝日出版社、1980年 |