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神話7 『バルクの書』
ヒッポリュトス『全異端反駁』より
■1.三つの始源と二十四天使の誕生

 『バルクの書』においては、最初に三つの始源、すなわち、二つの男性的始源と一つの女性的始源が存在するとされる。二つの男性的始源のうち、一つは万物を予見する「善なる者」であり、他のグノーシス神話における「至高神」の位置を占める。他の二つの始源は男性的始源の「エローヒーム」と女性的始源の「エデン」である。エローヒームは「生まれた万物の父」と呼ばれ、予見されざる者、知られざる者、見られざる者である。エデンは「イスラエル」とも呼ばれ、予見されざる者、怒りやすい者、二つの心を持つ者、二つの身体を持つ者である。彼女は「隠部に至るまで処女で、その下は蛇であるという」。エローヒームとエデンは互いの欲望によって惹かれ合い、それぞれ十二人の天使たちを生んだ。天使たちの名前については以下の通り。

 [エローヒーム]     [エデン]
 ミカエール         バベル
 アメーン          アカモート
 バルク           ナース
 カブリエル          ベル
 エサダイオス        ベリアス
 (以下欠損 )        サタン
                  サタエル
                アドナイオス
                カヴィタン
                ファラスト
                カルカメオンス
                ラタン

■2.楽園における人間の創造

 これらの天使たちは、「東の方のエデンに設けられた」「パラダイス」を創造する。そして彼らは寓喩的に、パラダイスに生えている「木々」と称される。そして、「命の木」はエローヒームの第三の天使の「バルク」に当たり、「善悪の知識の木」はエデンの第三の天使の「ナース(蛇)」に当たる。エローヒームとエデンの共なる満悦(性行)によってパラダイスが造られたとき、エローヒームの天使たちが最もよい部分──すなわち、土の獣的部分ではなく人間的高貴な部分──を用いて人間を造った。土の獣的部分からは、獣と他の生き物が生じた。エローヒームとエデンは人間が造り出されたことを賛美し、エデンは心魂を、エローヒームは霊を人間に差し入れた。同様にエバもまた、土の像とシンボル、永遠に守護する封印となった。エバにもエローヒームから霊が差し入れられ、彼らには次のように戒めが与えられる。「生めよ、増えよ、地──つまりエデン──を継げよ」。こうして、最初の人間のカップルが創造された。

■3.天地の創造

 世界はエデンの十二人の天使たちによって治められ、彼らは四つの川、ペイソン、ギホン、チグリス、ユーフラテスに対応して、四つのグループに分類される。天使たちは輪舞する合唱隊のように全地を巡り、場所から場所を変えて、各地を支配する。特にペイソンのグループは飢えや災害を司り、彼らが支配する地域に災いをもたらす。なぜなら、吝嗇がこれらの天使たちの仕事だからである。同様にその他のグループも、「エデンの意志によって世界を絶え間なく通過する悪の流れ」に荷担している。

■4.エローヒームと「善なる者」の出会い

 この世を創造し終えて、エローヒームは、自分たちの被造物に欠陥がないかを確かめるために、自分の天使たちを伴って天の高いところに昇っていった。地なるエデンは、上昇することができなかったからである。天の境界でエローヒームは、自分が造った光よりも大いなる光を発見し、言った。「私のために門を開け。入って主に感謝するために。私は(自らを)主と思っていたからである」。「善なる神」は門を開いてエローヒームを迎え、彼を自分の右側に据えた。エローヒームは自分の創造した世界がいかに劣ったものであるかを悟り、これを破壊しようとするが、「善なる神」は、自分のもとで破壊という行為をすることができないということと、「お前とエデンが共なる満悦から世界を造った」のだから、という理由で、これを思いとどまらせる。こうして、エローヒームは「善なる神」のもとにとどまり、世界はエデンに委ねられることになった。

■5.エデンの混乱と悪の発生

 エデンはエローヒームの気高い撤退を、自分に対する放棄と決裂だと解釈する。エデンは最初、美しく着飾って自分を魅力的にし、エローヒームが戻るように誘惑する。しかし彼が戻らないので、エデンはその屈辱を、人間に対して復讐する。彼女は天使のバベル──これがアフロディテーであるとされる──を送り、姦通を行わせることによって、人間を離婚に追い込んだ。それは、人間もまた見捨てられたエデンと同様の苦しみを受け、それと同時に人間の内なるエローヒームの霊をも苦しませるためである。そしてエデンは次に、天使のナースに人間を懲らしめるための大いなる権限を与える。

■6.バルクの派遣

 エローヒームはこれを見て、自分の第三の天使のバルクを、人間の内にある霊を助けるために派遣した。なぜなら、他のエデンの天使たちが情欲(パトス)だけを持っているのに対して、ナースは不法を持っているからである。バルクは人間に、「パラダイスにあるすべての木から取って食べなさい。しかし、善悪を知る木(ナース)からは食べてはならない」と告げる。しかしナースは、エバを誘惑して彼女と姦通したばかりか、それでも飽き足りず、アダムにも近づいて「彼を少年のように扱った」(同性愛的な性行を意味する)。これらが人間のすべての姦通と男色の始まりとなったのである。こうして世界には、エローヒームに由来する善と、エデンに由来する悪が広まることとなった。

■7.モーセと預言者たち

 モーセや預言者たちのもとに遣わされたバルクは、彼らを通してイスラエルの子らに、「善なる者」に立ち帰るようにと語った。しかしナースはこれを妨害し、エデンに由来する心魂によって、バルクの戒めを暗くした。人間の中では、エローヒームの霊とエデンの心魂が常に対立していることになる。

■8.預言者ヘーラクレース

 最後にエローヒームは、無割礼の者(ユダヤの預言者以外の者)の中からヘーラクレースを預言者として選び、エデンの十二の天使たちを討伐させようとする。これが、ヘーラクレースの十二の功業である。しかし、彼がその功業を成し遂げたと思ったとき、オムパレー(リュディア王国の女王)──彼女はバベル、またはアフロディテーである──がヘーラクレースに取り憑き、彼からエローヒームの力を剥ぎ取り、彼女の衣──すなわちエデンの力──を着せた。こうして、ヘーラクレースの功業は空しくなってしまったのだった。

■9.バルクがイエスのもとに遣わされる

 最後にバルクは、エローヒームによって、ヨセフとマリヤの子であるイエスのもとに遣わされる。彼はイエスに、これまでの経緯とこれから起こるであろうことを説明し、彼に次のように語る。「お前より以前の預言者たちはすべて誘惑された。だからイエスよ、人の子よ、誘惑されないようにして、この言葉を人間たちに宣べ伝え、父と善なる者のことを彼らに告げ知らせ、善なる者のもとに昇り、そこに、万物のわれらの父エローヒームと共に座りなさい」。イエスはバルクに従って宣教を行った。イエスはバルクに忠実であったから、ナースも誘惑することができなかった。ナースはこれに腹を立て、イエスを十字架にかけようとする。しかしイエスは、エデンの身体を木に残し、善なる者へと昇っていった。そしてエデンに、「女よ、あなたの子です」と言い残した。

■10.ギリシャ神話との関係

これまで語られた物語に即して、さまざまなギリシャ神話が寓意的に読み解かれる(内容については割愛)。

■11.「誓い」と「洗礼」

 最後に、至高神への誓いの言葉と洗礼の方法について述べられる。「私は万物の上にいます者、善なる者に誓います。これらの奥義を守り、誰にも口外せず、善なる者から被造物へと背き去らないことを」。これを誓ってから、善なる者のもとへ来ると、人は「目が見ず、耳が聞かず、人の心に思い浮かばなかったこと」を見る。そして次に「活ける水」から飲む。これは彼らにとっての「洗い」であり、彼らの考えでは、「ほとばしり出る活ける水の泉」なのである。水と水の間には区別があり、天空の下には悪しき被造物の水があって、その中では泥的人間と心魂的人間が身を洗う。そして、天空の上には「善なる者」の「活ける水」があって、霊的な者、活ける者や、エローヒームは、そこで身を洗い、今や後悔することがないのである。
[出典]『ナグ・ハマディ文書Ⅰ 救済神話』
荒井献・大貫隆・小林稔・筒井賢治訳、岩波書店、1997年