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神話11 『シェームの釈義』
『ナグ・ハマディ文書』より
■1.救済者デルデケアスの出現

 あるときシェームは突然の脱魂状態に襲われ、その思考は被造物の世界の頂にまで運び上げられる。そこには地上的なものは何も存在せず、光だけが存在した。シェームに対して、救済者のデルデケアスは次のような言葉によって世界の来歴を語り始める。「シェームよ、お前は混じりなき力からの者、(ノアの洪水以降)地上では最初の存在。だからこそ聞いて、理解しなさい。私が現れる以前の太初に存在した大いなる力について、私がこれからお前に初めて語ることを」。

■2.世界の三つの始源

 デルデケアスによれば、世界に最初に存在したのは、「光」と「闇」、そしてその中間にある「霊」であった。光は「聞くこと」と「ロゴス」に満ちた思考であり、統一された形を有していた。これに対して中間にある霊は、それよりはやや控えめな光であった。そして闇は、「水」の中にあって、同時に混沌とした火に包まれた「ヌース」(*)を有していた。これらの三つの始源は、最初は個々別々に存在していたのである。

(*)水面に映る光の影を指していると思われる。

■3.闇が光に気づく

 ところがあるとき、闇が動き出し、その騒音によって霊が震え上がった。霊は暗黒の水を眺めおろし、そこに捕らわれたヌースを見て吐き気を催す。他方、闇もまた霊の存在に気がつき、霊が持つ光の美しさを見て驚愕する。闇は、自分より上に別の力が存在するということを、それまで知らなかったのである。闇は自分の外見が暗くみすぼらしいことに気づいて悲しみ、ヌースを利用して「苦い悪の眼」を形作った。その眼によって霊を凝視すれば、自分もまた霊のようになれるだろうと考えたのである。

■4.デルデケアスの派遣と闇の世界の変容

 霊の光を自らのうちに取り込もうとする闇の試みを阻止するために、光の世界の至高神はデルデケアスを派遣する。デルデケアスが現れたことによって「苦い悪の眼」は裂け、ヌースは闇の世界の深淵へと落ち込んでしまう。そして闇はその姿を変え、あたかもヌースを胎児として抱え込むかのように、「処女膜」「胞衣(羊膜)」「力」「水(羊水)」という四つの部分によって構成される「子宮」の姿になったのである。同時に、ヌースは「苦い悪の眼」として霊を凝視し、その模像を自らのうちに取り込んでいたため、子宮の内部にそのあらゆる模像が形を取ったのだった。

■5.デルデケアスが「光の衣」をまとう

 今や霊との類似性を備えているヌースと、その種々の模像を子宮から救い出すために、デルデケアスはさまざまな形姿を取りながら闇の世界に到来する。一度目にデルデケアスは、「光の衣」をまとって闇の世界に現れ、至高神の助けを借りながら、霊としてのヌースを闇から分離する。子宮に捕縛されていたヌースは至高神とデルデケアスに感謝を捧げて立ち上がり、同時に子宮もまた、耐えることができずにヌースを外部へと注ぎだしたのである。

■6.デルデケアスが「火の衣」をまとう

 子宮から救出されたヌースは、光の世界と闇の世界の「中間の場所」に到達し、そこに存在した霊と合一することにより、安息を受ける。するとそのとき、失った光を我がものにしようと追いすがるように、子宮が闇の水の中からその姿を現し、狡猾さに満ち満ちた眼で中間の光を凝視したのである。この光景を見たデルデケアスは、今度は「火の衣」をまとって子宮の前に現れる。こうして子宮は、再び取り込もうとしていたヌースを投げ捨て、痛みのあまりに錯乱して泣いたのだった。

■7.デルデケアスが「獣の姿」をまとう

 デルデケアスは次に、「獣の姿」をまとって子宮の前に現れる。今や盲目となってしまった子宮は、それを自分の子どもであると誤認してしまう。デルデケアスは子宮に対して、「一つの天と一つの地が生じるように」と誓願する。その求めに応じて子宮は立ち上がり、自らの姿を投げ捨てて、天と地を、さらにはあらゆる種類の食物と動物たちを生み出した。デルデケアスは再び「火の衣」をまとって被造物全体の上に輝き、ピュシスを乾燥させると同時に、そこから闇をぬぐい去って、世界の創造を完成させた。

■8.人間の創造と闇による迫害

 霊の像が地と水の中に現れ、その像にしたがって人間が創造される。「光に似た者たち」である人間には思考が備わっているが、しかし同時に、ピュシスに由来する悪しき欲望の力もまた植えつけられているのである。子宮や闇の勢力は人間たちを幾度も迫害したが、デルデケアスはその度に巧みに人間たちを救ってきた。このような背景に照らしながら、創世記の記事(洪水、バベルの塔、ソドムとゴモラ等)について再解釈される。

■9.人間の運命と終末

 人間をピュシスに縛りつけようとする悪霊たちと、そこから解放させようとするデルデケアスは、絶え間のない抗争を続ける。そして人間の運命は、悪霊の導きにしたがって迷いと滅びの道をたどるか、デルデケアスの導きにしたがって救済の道をたどるかによって決定されるのである。特にデルデケアスは、人間たちに対し、洗礼を忌避するように命じる。なぜなら洗礼は、人間をピュシスへと拘束しようとする悪霊たちの業だからである。「人間たちは解放されない。彼らはその水に縛られているからである。その有り様は、ちょうど霊の光が太初から縛られているのと同じである」。人間が救済に与るために必要なのはむしろ、世界の来歴と、真実の神々の正しい名前を知ることなのである。

 デルデケアスが地上から離れ去るときには、世界には闇が広がり、大いなる悪しき迷いに覆われる。そして、火のような姿をした一人の悪霊が到来し、天を引き裂いて被造物全体を揺れ動かすとともに、世界を無秩序と混乱に陥れるのである。シェームがデルデケアスの教示に感謝を捧げると、ようやくシェームは我に返る。デルデケアスはシェームに対して、恵みの内に歩み、信仰を貫くことを命じると同時に、その教えを公に告げ知らせるように勧告する。
[出典]『ナグ・ハマディ文書Ⅳ 黙示録』
荒井献・大貫隆・小林稔・筒井賢治訳、岩波書店、1998年