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神話12 マンダ教の教説
『ギンザー(財宝)』より
■1.光の世界

原初に存在したのは、「命」、「光の王」、「大いなるマーナー(「器」や「壺」の意)」等と呼ばれる至高神である。至高神は自身の内部から、「ヨルダン」と呼ばれる活ける水を流れ出させる。活ける水は「上なる大気の地」へと流れ込み、至高神はその水面に自らの姿を反射させる。これによって世界は光で満たされるとともに、その輝きの一つ一つから、「ウトラ(「富」や「豊かさ」の意)」と呼ばれる新たな神格が生み出されるのである。

■2.アバトゥルがプタヒルを生み出す

 ウトラたちの一人である「アバトゥル(「ウトラたちの父」の意)」は尊大な性格を持っており、父なる至高神と同じように、自分の力で世界を創造しようと考えた。彼は光の世界の境界に赴き、そこから「濁った水」に満たされた「闇の地」を覗き込む。するとその水の中に、アバトゥルの姿が映し出された。アバトゥルはその像を「プタヒル(*)」と名づけ、次のように呼びかける。「来るがよい、来るがよい、プタヒルよ! お前は私が黒い水の中に見つめた者だ」。

(*)エジプトの職人の神「プター」にセム語の「イル(神)」を付けたものと想定され、造物神を意味している。

■3.プタヒルの世界創造

 アバトゥルはプタヒルに対し、闇の地に新たな世界を創造するように命じる。「さあ立て、さあ行け、さあ下れ! シュキーナー(「住居」の意)も世界も存在しない場所へ。自分に一つの世界を造り出せ、お前が見た救いの子らと同じように。一つの世界を創造し、整えよ、自分に世界を創造し、その中にウトラたちを形造れ」。

 こうしてプタヒルはアバトゥルのもとから下降し、闇の地へと、その濁った水の中へと足を踏み入れた。プタヒルはその世界に語りかけることによって秩序を生み出そうとするが、その試みは成功しない。さらには、自らが光の世界の存在者であることを証立てる「活ける火」を、徐々に衰弱させてしまったのだった。

■4.ルーハーとウル

 濁った水の中で困窮するプタヒルの姿を見て、闇の世界の存在者たちは逆に活気づく。なぜなら、その世界を支配する権限を、プタヒルから奪い取ることができると考えたからである。悪しき霊であり、女性的な神格である「ルーハー」は、その息子で「闇の王」と呼ばれる「ウル」に対して次のように呼びかける。「立って、見よ! あの見知らぬ男(プタヒル)の輝きは小さくなり、その輝きに欠乏と過失が生じた。さあおいで、お前の母と寝るのだ。お前を縛りつけている鎖、あらゆる世界よりも強いその鎖からお前が解き放たれるために」。

 こうして闇の存在者たちは近親相姦的な行為を繰り返し、惑星天や恒星天、太陽と月といった神々を産み落としていくが、それらは醜悪かつ歪(いびつ)な存在者であり、またルーハーは、彼らに秩序を与えることに成功しなかった。自らの無力を悟ったルーハーは嘆いた、「言ったのはこの私。でも誰も教えてくれなかった。私が欲したことは成らなかった。どれも他のと似ていない」。これを聞いた彼女の息子たちは反抗して立ち上がり、父親を否定するとともに、無窮なものなど何一つ存在しないのだ、と叫んだのだった。

■5.プタヒルが至高神に助けを請う

闇の世界に生じた惨憺たる状況を見たプタヒルは、これまでの行いを反省して、次のように考えた。「私は出かけ、命(至高神)の前に頭を垂れよう。大いなる方に従おう。活ける火の衣をもらって、濁った水の中を動き回るのが私の望みだ。濁った水の中を動き回って、これから生じることを示したい」。プタヒルの請願に対して至高神は、彼の希望通りに「火の衣」を授ける。そしてプタヒルがそれを身に纏って闇の世界を動き回ると、それまで濁った水に満たされていたその場所は徐々に乾燥して大地が生じ、高みには天蓋が立ち上って天空に場所を占めたのである。

■6.人間の創造

 次にプタヒルは、惑星天の神々を呼び出して言った、「われわれはアダムを造ろう。彼が世界の王となるように」。そこで惑星たちは、物質世界のさまざまな要素を駆使してアダムの肉体を作り上げたが、魂を持たないアダムは立ち上がることができなかった。そこでプタヒルは、アバトゥルに「私が創造した他のことは成功しましたが、私とあなたの模像だけがうまくゆきませんでした」と訴えかける。するとアバトゥルは立ち上がり、秘められた場所へと赴いて、「マーナー」の一つをターバンでくるみ、プタヒルに与えた。同時に至高神は、ヒビル(アベル)、シティル(セツ)、アノシュ(エノク)を呼び、人間の魂となるマーナーを守護すること、それがどのような仕方で人間に入るのかを知られないようにすること、を命じた。プタヒルによって魂を与えられたアダムは、こうして立ち上がることができたのである。

■7.人間の死後の運命

人間が地上での生を終えると、その魂は光の世界へと帰昇することになる。そしてその途中には、惑星天を始めとするさまざまな劣った神々がその行く手を阻もうとするのと同時に、その人間の地上での行いについて審判するのである。地上で罪を犯さず、また洗礼を中心とするマンダ教の正しい信仰生活を遵守した者は、神々の見張り所を次々と突破してゆく。そして最後には、アバトゥル自身の審問を受けるのである。その光景は次のようなものである。

私はさらに進んで、あの年老いた、いと高き、隠して取っておかれたアバトゥルのいる見張り所にやってきた。私はわが兄弟のウトラたちに尋ねる、「これは誰の見張り所か。この中に縛られているのは誰なのか」。するとわが兄弟のウトラたちが答える、「これは年老いた、いと高き、隠して取っておかれたアバトゥルの見張り所だ。彼の前に秤がしつらえられている。彼は一人一人の生前の業とこれからの報いを秤にかけるのだ。彼は量って、霊を魂と一つにするのだ。その計量で完全な重さを示すことができる者は、上へ引き揚げられ、命(至高神)の支えを与えられる。その計量で完全な重さを示すことのできない者には、もうここで裁判は結審する」。

 アバトゥルの審問を通過した魂は、ついに光の世界へと到着する。そこで魂は、光の世界を満たす活ける水によって洗礼を授けられ、地上で被った汚れや腐敗を完全に清められるのである。
[出典]『グノーシスの神話』大貫隆訳・著、岩波書店、1999年