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神話18 『ペトロの黙示録』
『ナグ・ハマディ文書』より
■1.ペトロへの黙示

 救い主は、神殿で、汚れのない人々に囲まれて憩っていた。そして、そのなかにいたペトロに対して、秘密の教えを語り始める。「ペトロよ、父に属する者たちは幸いだ。彼らは諸天のさらに上に位置している。父は、生命から出ている者たちに、私を通して生命を啓示したのである。私は彼らに対し、私の言葉を聞くように、そしてそれを不正や不法の言葉から区別するように指示した。しかし、この世の支配者たちは彼(父)を見出さなかったし、預言者たちも彼について語らなかったのである。ペトロよ、あなたは完全な者として、私のもとに留まり、私の義を模倣する者がいなくなるまで、強くありなさい」。

■2.祭司たちと民衆が、救い主を捕らえるために近づく

 これらのことを話していると、祭司たちと民衆が、石を手に、救い主たちを殺そうとして走ってくるのが見えた。ペトロが、自分たちは殺されるのではないかと恐れると、救い主は、彼らは目が見えず耳も聞こえない人々であると話し、それを確かめるために、目と耳を閉ざしてみなさいと勧める。ペトロが目を閉ざすと、昼の光よりも明るい光が、救い主の上に降りるのが見えた。また耳を閉ざすと、救い主を賞賛する言葉が聞こえた。

 救い主はペトロに対し、「さあ、今から、秘義においてあなたに語られるものを聞き、守りなさい。それをこの世の子らに話してはならない。なぜならあなたは、この世においては憎まれるだろうから。しかしあなたは、認識を得た人々によって誉め称えられるだろう」と告げ、この世がどのような勢力に支配されているかを語り始める。

■3.この世は「迷いの父」によって支配されている

 救い主によれば、この世は「迷いの父」と呼ばれる神によって支配されている。「迷いの父」とその配下のアルコーンたちは、「迷いの名」を使い、さまざまな教説を捏造しては、それによって人々を支配する。それらの神々は、秘義を理解せず、知りもしないことを語り、それにもかかわらず、真理の秘義は自分たちのもとだけにある、と言う。しかし実は、人間たちの持っている不死の魂を妬んでおり、造られた世界のなかで、共にありたいと望んでいる。それゆえに彼らは、魂を欺いて宿命のなかに拘束し、魂に自分たちを賞賛させようと目論んでいるのである。

■4.ペトロの不安

 救い主の言葉をここまで聞いたペトロは、次のように応答する。「あなたの話を聞いて、私は不安です。私たちにとって、小さい者たち(真理を知る者たち)の方が、むしろ模倣物であるかのように思えるからです。逆に、活ける者たちの群れを迷わせ、押し潰してしまうであろう者は、数多くいます。彼らがあなたの名を語れば、人々は彼らを信じてしまうでしょう」。これに対して救い主は、迷いによる支配の期間は長くは続かず、迷いが終わると万物の更新が起こり、支配者たちの放縦さが露わにされるだろう、と答える。

■5.救い主が磔刑を受ける

 救い主がこのように答えたとき、ペトロには、救い主が人々によって捕らえられたように見えた。ペトロは、「私は何を見ているのでしょうか、主よ。捕まえられているのは、あなた自身なのですか。また、十字架のそばで喜んで笑っているのは誰ですか。彼らが両足と両手を釘で打っているのは、別の誰かなのですか」と尋ねる。これに対して救い主は、「あなたが見ている、十字架の傍らで喜んで笑っている人物は、活けるイエスである。しかし両手と両足を釘で打たれているのは、彼の肉的な部分、すなわち「代価」である。活けるイエスの模倣物を、彼らは辱めているのである。しかし、彼と私を見なさい」と答える。

 そこでペトロは、「主よ、あなたを見ている人は誰もいません。この場所から逃げましょう」と提案する。しかし救い主は、彼らは目が見えず、自分が何を言っているかも分かっていないのだから、放っておきなさい、と答える。そのときペトロのところに、十字架の傍らで笑っていた人物(活けるイエス)が、聖なる霊に満たされた状態でやって来るのが見える。それは他ならぬ救い主であった。救い主はペトロに、自分自身は輝く光で満たされている叡知的な霊であり、あなたが私の聖なる霊と結合することこそが、叡知的な完成(プレーローマ)を意味する、と告げる。

 救い主は最後に、あなたが見たものは、この世に属していない別の種族(アロゲネース)にのみ伝えなければならない、と語る。救い主がこのように言ったとき、ペトロは我に返ったのだった。





[出典]『ナグ・ハマディ文書Ⅳ 黙示録』
荒井献・大貫隆・小林稔・筒井賢治訳、岩波書店、1998年