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11.04.03 ジュディス・ハーマン『心的外傷と回復』について
★ジュディス・ハーマンの『心的外傷と回復』を読了。名著として誉れ高い本作だが、私にとって、今まで十分認識していなかった新しい領野の存在を教えられる読書体験だった。「トラウマ」という概念が、これまでの精神医学で何度も消滅と再浮上を繰り返してきた事実や、その理由を知ることができた。

★現在の精神医学は、DSMに基づく簡便な診断と、対症療法的投薬が主流になっている。しかし、多くの精神疾患の根底に何らかのトラウマが存在することを考慮に入れ、カウンセリングやグループセラピーに代表される、言語・認知・社会的アプローチをもっと採り入れるべきではないかと感じさせられた。

★本書を読んでいて時折思い出したのは、数年前に興味深く読んだ漫画『彼氏彼女の事情』(津田雅美著)である。『心的外傷と回復』の記述に照らしても、この作品は、幼児虐待を受けた主体が成長の過程でどのような人格を身に付け、どのような契機で回復しうるかということを見事に描き出している。

★おそらく作者の津田雅美氏が、ハーマンの著作を読み、これを種本にしているということはないのだろう。ほとんど想像力のみに依拠して、これほどまでに深く心理的現実に肉薄することができるのだから、物語作者の力には驚く他ない。フロイトもしばしば、同じような感想を漏らしていたが。